2009年8月8日土曜日

消費者行動理論

消費対応の考え方

①マーケティングコンセプト

マーケティングコンセプトは、企業と消費者の関係を考えたり、分析したりする際の代表的な思考の枠組みである。それは、「消費者を理解し、消費者に喜ばれる製品サービスを作ることを第一とする」という発想を企業経営や事業運営の基本的な指針とするという考えである。つまり、企業や事業のあり方を「企業組織の外から内へ」という目線でとらえようとするものである。

②販売コンセプト

販売コンセプトでは、消費者ではなく、企業の内部活動を発想の起点とする。その典型的な問いは、「企業が作り出した製品サービス、あるいは企業が有している技術や能力をいかに売るか」というものである。つまり、「企業組織の内から外へ」という目線で捉えることができる。


①消費者→→→→→→→→→→→→企業
②消費者←←←←←←←←←←←←企業

重要なのは、マーケティングコンセプトと販売コンセプトの優劣に決着をつけることではなく、両者の間を行き来することである。


インプット-アウトプット分析とメカニズム分析

マーケティング担当者は、「どのような消費者が、何を必要としているのか」「さらに多くの消費者により多くを購買してもらうには、いつ、どこで、何を行えばよいか」

①インプット-アウトプット分析(S-Rモデル)

インプット-アウトプット分析は、「刺激-反応モデル」と呼ばれることもある。それは、「どのように刺激したら(インプット)、どのような購買行動を引き出せるか(アウトプット)」という図式で消費者の購買を理解しようとするものである。

(EX)ある缶コーヒーのブランドの広告料を増やすというインプットに対して、消費者の購買数量というアウトプットがどのよういに変化するのかという分析は、典型的なインプット-アウトプット分析である。

②メカニズム分析(S-O-Rモデル)

インプット-アウトプット分析では、ブラックボックスとなる、消費者の反応を導くプロセスを解明しようとするのがメカニズム分析である。マーケティング活動によって与えられた刺激が消費者の反応を引き起こすには、消費者の認知や意思決定のプロセスを経なければならない。この刺激と反応との間を取り持つプロセスの作動を解明するのがメカニズム分析である。
メカニズム分析は、S-O-Rモデルが代表的である。

S-O-Rモデル研究

Sは刺激(stimulus)、Oは生活体(organizm)、Rは反応(response)を表している。最も代表的な研究であるハワードシェスモデルでは、消費者は、実際の製品(実際的刺激)、広告(象徴的刺激)、口コミ(社会的刺激)、などの刺激を知覚し、時には、自ら進んでこれら刺激を探索(外的探索)しながら、製品に対する態度を形成する。好意的な態度が形成されたなら、それは購入意図をつくり、結果として購買行動を起こすことになる。そして、購買した製品の満足、不満足の結果はフィードバックされ、ブランドに関する知識(ブランド理解)が強化、修正される。このような刺激に対する消費者の反応段階を包括的モデルの中に示したS-O-Rモデル研究は、企業にとっては、自社の製品の浸透度合いを把握することを、また、消費者を購買行動へ向わせるための戦略ポイントを理解することを可能にさせるものであり、今日なお非常に実用的な分析法である。


購買意思決定の分析

購買の意思決定のプロセスは、消費者の心の中では、次の2つの局面の組み合わせとして展開することとなる。

①最適な製品、サービスを知覚し評価する。

プレゼントなどを購買する場合、消費者は、購買可能な製品サービスの中から最良なものを選ぼうとする。購買意思決定とは、様々な選択代案を知覚して、それぞれを評価することである。

②購買の必要や欲求を確立する。

だが、そもそも消費者がプレゼントを手に入れたいと思わなければ知覚や評価は始まらない。購買意思決定は、特定の製品サービスに対する必要や欲求を確立することから始まる。後で触れる、このメカニズムは、「手段-目的の連鎖」と呼ばれる枠組みによってとらえることができる。

購買意思決定には以上のような2つの局面がある。例えば、ビール広告で、スポーツで汗を流した後に、ビールを飲む爽快感を訴求することは、②への対応となり、他社のビールとの比較で、自社のビールにおける優位性を訴求することは①への対応となる。

①消費者情報処理

上述のように、消費者の購買意思決定は2つの局面から成り立っており、以下では、それぞれの局面について検討する。

消費者情報処理のプロセスは、知覚評価という2つのサブプロセスから成り立っている。消費者情報処理にあたっては、

まず、①代替案となる製品サービスに関する情報が収集される(知覚のサブプロセス)。このプロセスでは、目や耳のような感覚器を通じて外部情報を選択しながら取得するとともに、過去の体験、記憶との統合がはかられる。

続いて、②最良と判断される代替案が選ばれる(評価のサブプロセス)。このプロセスでは、知覚された様々な属性の情報を比較して、代替案を評価、選択する。

缶コーヒーA、缶コーヒーB、缶コーヒーC→知覚(情報の選択的取得、統合)→評価(代替案の比較、選択)→購買行動

ボトムアップとトップダウン

知覚あるいは評価のサブプロセスで行われる情報の取得や統合は、実行可能な簡便な手続きによってなされる。その手続きは、以下の2つの組み合わせで行われる。

①ボトムアップ型の処理

対象の属性を網羅的に集め、積み上げ型で知覚と評価を行うというやり方である。例えば、缶コーヒーであれば、パッケージの色、ロゴ、ブランドといった属性を集めて、それらを比較しながら、全体としての知覚や評価に結び付けていくという方法である。

②トップダウン型の処理

実際、ボトムアップ型の処理だけで知覚評価を進めることは難しい。あらゆる属性にかかわっていると処理に時間がかかり過ぎるからである。トップダウン型とは、知覚対象や評価方法をあらかじめ特定化してしまうやり方である。例えば、缶のサイズやブランド名だけを見るといったように特定の対象に絞るのである。

以上のように、限られた時間の中で、様々な商品を選択的に知覚し、評価しようとする際に有効なのは、ボトムアップ型の処理とトップダウン型の処理を組み合わせた対応である。すなわち、トップダウン型の処理によって知覚対象や評価方法を限定しながら、一定の範囲でボトムアップ型の処理を行うという対応である。この2つの処理の比重が変わることで消費者情報処理に多様なバリエーションが生じることになる。

ヒューリスティック

ボトムアップ型とトップダウン型の処理を組み合わせる時に、鍵となるのが、ヒューリスティックである。ヒューリスティックとは、知覚や評価の進め方のルールである。

このように消費者情報処理では、「製品サービスの選択」「ヒューリスティックの選択」という2重の選択が行われる。消費者情報処理とは、ヒューリスティックに従って製品サービスを選択することであると同時に、おかれた状況に応じて、様々なヒューリスティックの中から、どれかひとつを選択することでもあるのである。

また、この2重の選択がどのように行われるかは、消費者がどのような必要や欲求を確立しているかによって異なる。「購買の必要や欲求」の確立は、消費者による購買意志決定の第2の局面であり、消費者情報処理の2重の選択の背後にあって以下の影響を及ぼしている。

①製品サービスの選択への影響
購買の必要や欲求は、その製品サービスに対する消費者情報処理を行うように動機付ける。

②ヒューリスティックの選択への影響
購買の必要や欲求が確立することで、消費者情報処理の進め方が決まる。すなわち、購買の必要や欲求の確立は、消費者がどのようなヒューリスティックを選択するのかにも影響を及ぼす。

関与と知識

一般的に、当該製品に関与(思い入れ、こだわり)の高い消費者は想起集合や拒否集合内のブランド数が多く、関与の低い消費者は共に少ないと考えられる。このように、消費者は多様な情報処理活動を行うわけだが、関与と知識は、これらの活動を規定する。消費者情報処理研究(情報取得、情報統合、情報保持)への動機付けを規定するものとして、関与を、情報処理の能力を規定するものとして知識をあげている。例えば、家電業界の多機能化競争が使わないボタンの多くついたビデオデッキなどを生み出した状況は、関与概念で考えることができる。つまり、家電に関して高関与な消費者にとっては、多機能製品の方が面白く、低関与な消費者にとっては、情報処理の負荷が大きく感じて顧客満足度が低くなる。

ライフスタイル研究

情報処理研究が、消費者をコンピューターのアナロジーとして捉える面が若干あるのに対し、消費者をより全体的な視点から捉えようとするのがライフスタイル研究である。
ライフスタイル研究の代表的な研究としては、VALSプロジェクトがある。

VALSプロジェクト

大規模な消費者調査をすることで、その結果を分析し、①その日暮らし②忍耐派③帰属派④野心派⑤達成者⑥個人主義⑦体験派⑧社会理念派⑨トータルバランス派という9つのライフスタイルを析出している。VALSプロジェクトの特徴は、マズローの欲求5段階説とリースマンの同調様式の類型をもとに構造化した点である。9つの類型は、①その日暮らしから⑨トータルバランス派に至る垂直的な階層構造をなしているが、この点は、生理欲求→安全の欲求→所属と愛の欲求→承認の欲求→自己実現の欲求のマズローの5段階説に基づいている。また、階層構造の途中(帰属派から)、他人志向と内部志向という二重の道筋があるが、これは、行動の基準を他人に置くか、自己に置くかというリースマンの内部志向と外部志向の考え方を取り入れたものである。このようにVALSは、生活者の日々の消費者行動を背景から支える価値観やライフスタイルの大きな流れを把握する上で非常に重要な研究である。


②手段-目的の連鎖(必要や欲求の構成をとらえる)

消費者の購買行動を導いている必要や欲求の基本的な構成は、「手段-目的の連鎖」と呼ばれる構造のもとでとらえることができる。手段-目的の連鎖とは、消費者の必要や欲求を手段と目的の連鎖的な構成物として捉えたものである。

(EX)オフィスの自動販売機コーナーで缶コーヒーを購買しようとしている場面を考えると。缶コーヒーを飲むということは、目的である。しかし同時に、缶コーヒーを飲むことは、会議の合間に気分転換をするといった、さらにその上位の目的の手段でもある。更に上位には、会議での集中力を保つといった目的が考えられ、会議の合間に気分転換することは、そのための手段となる。

しかし、手段-目的の連鎖を分析しても、買い手が製品サービスに対して抱いている必要や欲求について根源的な理由を突き止められないという点には注意が必要である。以下の2つの問題があるからである。

①手段-目的の連鎖はどこまでもさかのぼることができる。
②手段-目的の連鎖をさかのぼることで必要や欲求が相対化されてしまう。

このように、手段-目的の連鎖を用いた分析は、見逃されがちな、購買の必要や欲求の「遇有性(ほかでもありうる可能性)」の問題へと開かれる。


相対化の遮断

手段-目的の連鎖をさかのぼっていくと、そこに現れるのは、製品サービスに対する消費者の必要や欲求の根源的な理由ではなく、その遇有性である。見えてくるのは、消費者の必要や欲求が揺らぐことない確かな基盤に根ざしているわけではなく、逆に必要や欲求には、ほかでもあり得る可能性(つまり遇有性)が常に潜んでいるということである。次に考えなければならないことは、遇有性の中で、いかにして特定の製品サービスに対する欲求を確立するのかという問題である。以下の2点が指摘できる。

①消費者の情報処理能力には限界がある。
一定時間の中で消費者が処理できる情報は有限である。また、消費者がおかれた個々の状況の中で、アクセス可能な製品サービス、それらにかかわる情報が有限である。

②手段-目的の連鎖が、循環する関係のなかで生成する。
消費者が知覚評価を行うプロセスの中で、手段と目的との間に次のような循環的な関係が生成することがある。
(A)タロウは、疲れを感じたので缶コーヒーを飲みたくなった。
(B)タロウは缶コーヒーが飲みたくなったので、疲れていることに気づいた。
このような循環が消費者の心の中で永遠に続いていくわけではないが、少なくともこうした関係がぐるぐる回っている間は、疲れているなという自覚と缶コーヒーを飲みたいという欲求に執着し続けることになる。
以上のようなメカニズムで、消費者意思決定において、なぜ特定の必要や欲求が絶対化するのかを理解することができる。

ポストモダン消費者行動分析

消費者情報処理に代表される従来のモダンの消費者行動分析があまりに認知的、分析的であったという反省に立って、より情緒的、経験的な視点から消費者行動を理解しいこうとするものである。ハーマンとホルブルックは、快楽的消費で方向性を示している。それは、消費それ自体が目的であり、消費すること自体が快楽であるような音楽、絵画、ファッションなどに特徴的な消費である。議論のポイントは、①分析対象の商品カテゴリー②消費者行動の局面の2点に沿って考えられる。①では、ファッション性の高い商品の行動分析を考える時に、従来の分析では不十分であり、主観的経験や感情に基づく新たな枠組みが必要である。②では、従来は、購買の局面に焦点を合わせたものが多かったが、消費者行動を真に理解するためには、購買後の使用行動や廃棄行動まで理解する必要がある。他にも、代表的なものとして、シュミットがいる。彼は、消費者の経験領域を、SENSE(五感)、FEEL(喜怒哀楽)、THINK(考える)、ACT(行動する)、RELATE(他人と交流する)の5つに分け、情緒的で経験的な消費者行動を分析する枠組みを示している。



市場の細分化-多様性への対応

次は、消費者購買を導く意思決定のメカニズムから、どのようなマーケティングマネジメントの指針が導き出されるのかを検討する。

まず、消費者の多様性に目を向ける必要がある。消費者とその購買行動は一様ではない。何を必要としているのか、どのような欲求を抱いているのか、どのようなヒューリスティックを用いているのかが異なると、消費者の購買行動は大きく異なる。

市場細分化マーケティング

マーケティングにあたっては、「消費者が真に求めているものに応える」といった、あらゆる状況に適用できそうなお題目を唱えているだけでは意味がない。むしろ、有用なのは、以下のような、「市場細分化マーケティング」の手順のっとって、消費者のどの必要や欲求に応えるべきか、知覚や評価におけるどのようなヒューリスティックに応えるべきかを特定化するという対応である。

市場細分化とは、製品サービスの用途が同じでも、消費者によって異なる必要や欲求、知覚や評価の方法、あるいは、生活行動などで市場を分割することである。このセグメントごとに異なるマーケティングの手法を市場細分化マーケティングという。

細分化された市場に対する企業の対応には、集中化、専門化、フルカバレッジという3つの選択肢がある。集中化は、特定の市場細分にのみ特化するという対応である。専門化は、自社の強みを発揮できる複数の市場細分を選択するという対応である。フルカバレッジは、すべての市場細分にアプローチするという対応である。

市場細分化の軸

軸の設定は、ダイナミックなプロセスとなる。なぜなら、消費者をタイプ分けするための切り口は固定的なものではないからである。例えば、缶コーヒーは、朝専用モーニングショットは、これまでにない、飲む時間帯という切り口で市場細分化をすることで大ヒットした。

○人口統計的変数 ○社会経済的変数 ○地理的変数 ○心理的変数 ○生活行動上の変数 ○製品サービスの属性変数 (消費財市場)

○産業統計的変数 ○使用状況にかかわる変数 ○組織購買行動上の変数 ○製品サービスの属性変数 (産業財市場)


市場細分化のメリット、デメリット

①メリット
市場細分化によって、マーケティングの手法や活動の効果と効率を高めることができる。また、市場細分化マーケティングを行うことで、市場全体の規模が拡大することがある。

②デメリット
企業のコスト負担を増加させる。製品サービスの種類が増えれば生産工程や在庫の管理が複雑化する。特にフルカバレッジ対応を目指す場合はより深刻になる。


市場細分化で満たすべき3つの条件

①独自性
それぞれの市場細分は、マーケティングの手法や活動に独自の反応を示すものでなければならない。異なる市場細分の間では、必要となる製品の仕様や価格に対する感受性、あるいは、利用頻度の高いメディアなどが異なってくる。

②十分な規模
市場細分は、十分な売り上げと利益が確保できる規模でなければならない。

③確実性
市場細分は、マーケティングミックスの計画、実行、評価を確実に行うことが可能なものでなければならない。セグメントの規模が推定でき、特性からマーケティングミックスのあり方が示唆されることと、過大なコストをかけずに、セグメントに特化した企業活動が展開できなければならない。


消費者をいかにリードするか

マーケティングマネジメントにあたっては、消費者行動の多様性だけでなく、消費者行動が意図せざる行為であることにも目を向けるべきである。そのため、MMは、消費者行動に適応すると同時にリードするという二面的な性格を帯びることになる。

消費者調査を繰り返すことで、企業は新製品、サービスの開発に有用な情報をその節目ごとに手に入れることができるが、消費者調査の結果どおりに進めない方が良い場合もある。こうした問題は、消費者が必ずしも自らの欲求を把握していないからである。需要なのは、消費者調査から現れら消費者の想いの背後に隠されている可能性や予兆を見抜くことである。

消費者行動に対応したマーケティングとは、消費者調査に全面的に従うことではなく、消費者の意向や要望の一歩先を行く提案を行いリードしなければならない。しかし、企業は次のような問題に直面する。消費者行動に対応するには、消費者をリードすることが必要だが、強調し過ぎると、消費者を置き去りにした「マーケティングの独善化」が起こる。独善にならないように様々手立てを講じなければならない。

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